甲状腺について

甲状腺

ホルモンを生成して分泌する内分泌器官のひとつである甲状腺は、のどぼとけの下付近に位置します。蝶が羽を広げたような形をしており、縦が約4cm、横幅が約2~3cm、厚さが約1cmで重さが15~20g程度という小さな臓器です。ただ内分泌器官としては、人体の中では最大の臓器でもあります。食物に含まれるヨウ素(ヨード)を主な原料として、甲状腺ホルモンが作られます。同ホルモンは新陳代謝を促進させる、体温を調節するなどの働きがあります。
この甲状腺に何らかの異常や障害がみられることで発症する病気を総称して甲状腺疾患と言います。同疾患の種類としては、甲状腺ホルモンが過剰に分泌している(甲状腺機能亢進症)、もしくは分泌量が少ない(甲状腺機能低下症)とされる甲状腺機能の異常をはじめ、甲状腺内に腫瘤が発生する甲状腺良性腫瘍や甲状腺悪性腫瘍、腫瘤からホルモンが分泌される病気などがあります。
甲状腺疾患の特徴として、先天性のケースを除くと女性患者さんが多いです。患者数の男女比に関しては、よく見受けられるバセドウ病が1:4~5、橋本病で1:10です。発症世代としては、20~40代が多く、小児や高齢者は少ないと言われています。

甲状腺疾患でよくみられる代表的な症状

喉が渇く、多汗、食欲旺盛も体重減少、動悸、頻脈、下痢、手指が震える、すぐにイライラする 等

甲状腺ホルモンが分泌不足の際にみられる主な症状

疲れやすい(易疲労性)、顔や体がむくんでいる、徐脈、食欲不振も体重増加、だるい、無気力、便秘、寒がっている、声がかれる 等

甲状腺腫瘤(良性腫瘍・悪性腫瘍)でみられる主な症状

頸部にしこり・腫れ、喉に違和感 等

主な甲状腺疾患

バセドウ病

バセドウ病は、甲状腺ホルモンが必要以上に作られてしまう病気で、「甲状腺機能亢進症(こうしんしょう)」の代表的な疾患です。主な原因は自己免疫の異常で、甲状腺が過剰に刺激されることによってホルモンが大量に分泌されます。
症状としては、汗が出やすい・動悸がする・食欲はあるのに体重が減る・手の震え・暑がりといった全身の代謝が過剰になる状態がみられます。また、眼球が前に出る「眼球突出」や首の腫れ(甲状腺腫)も特徴です。
治療は、まず抗甲状腺薬(チアマゾール、プロピルチオウラシル)による薬物療法から始め、必要に応じてアイソトープ治療や手術が選択されます。

破壊性甲状腺炎(無痛性・亜急性甲状腺炎)

バセドウ病と同じく一時的に甲状腺ホルモンが過剰になる病気です。甲状腺の炎症によってホルモンが血中に漏れ出すことで起こります。
亜急性甲状腺炎は、風邪の後に発症することが多く、ウイルス感染が原因と考えられています。首の痛みや発熱、飲み込むときの痛みといった症状があり、一時的に甲状腺ホルモンが過剰になることで動悸や手の震え、体重減少なども見られます。数週間〜3か月で自然に回復することが多く、痛みが強い場合は解熱鎮痛薬などで治療します。
無痛性甲状腺炎は、橋本病の患者さんや出産後の女性に起こりやすいとされ、痛みはありません。ホルモンが一時的に多くなった後、逆に少なくなり、疲れやすい・寒がり・体重増加などの「甲状腺機能低下症」の症状が出ることがあります。多くは自然に治癒しますが、症状が強い場合はホルモンの補充療法を行います。

橋本病(慢性甲状腺炎)

橋本病は、自己免疫の異常によって甲状腺が慢性的に炎症を起こし、徐々に機能が低下していく病気です。特に中年の女性に多く見られます。
主な症状は、首の腫れ(甲状腺腫)、疲れやすい、寒がる、便秘、むくみ、体重増加、皮膚の乾燥、脱毛など、代謝が落ちることによるものです。
甲状腺ホルモンの量が十分であれば経過観察となりますが、低下症状がある場合にはホルモン補充療法が必要です。

甲状腺腫瘍

甲状腺にできる腫瘍には、良性と悪性があります。良性腫瘍には「腺腫様甲状腺腫」や「プランマー病」などがあり、腫れや動悸、発汗、体重減少といった症状がみられることもあります。
一方、悪性腫瘍(甲状腺がんなど)は、「乳頭がん」「濾胞がん」「未分化がん」「髄様がん」などのタイプに分類されます。自覚症状が少ない場合もありますが、首のしこり、声のかすれ、飲み込みにくさ、発熱などが見られることもあります。
良性であれば定期的な経過観察を行い、必要であれば手術を検討します。悪性の可能性がある場合には、連携する病院をご紹介し、専門的な治療を行います。